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はじめに

2012年の年末から始まった上昇相場が、5月23日に大幅な下落をして以来、日本の株式市場は大きな混乱に陥っていますが、こういう時こそ株式投資の原点、個別銘柄への投資、について考えてみたいと思います。

アベノミクス前に大幅に増えた資産

実は先日「ある程度お金が貯まった事もあり、会社を辞めて投資の利益だけで生活して行こうと思っているのだが、セミリタイア生活についてアドバイスをして欲しい」というメールが送られてきました。(筆者のshareholderはセミリタイア生活をしている)

アベノミクス相場で大儲けをしたのかな?と思って話を聞いたのですが、必ずしもそういう訳ではなく、本格的なアベノミクス相場が始まる前に、資産を大きく増やす事が出来たというのです。それは、Jトラスト(8508)への集中投資によってもたらされたものでした。

5年で株価168倍のJトラスト(8508)週足5年チャート

アベノミクス前でも株価44倍のJトラスト

上記のチャートだと、最安値がいくらだったのかよく分かりません(笑)が、2008年1月17日に27円の最安値を付けています。5月13日の高値が4560円ですので、最安値の168倍という事になります。

よく、株価が10倍になった銘柄を「テンバガー」といいますが、5年4か月で168倍というのは極めて稀である事だけは間違いないでしょう。

しかし、もっと注目すべきは、アベノミクスラリーが始まる前に、この銘柄は既に大きな上昇率を記録していた、という事です。 (アベノミクスラリーの起点をいつにするかについては色々な考え方があるでしょうが、ここでは、国会での党首討論で野田前首相が解散の意向を明言し、民主党政権の終焉が明確になった昨年11月14日の翌日である11月15日を起点とします)

2012年11月14日のJトラストの終値は1210円でした。2008年の最安値からはこの時点で44倍になっていました。

筆者にメールをくれた人は、2012年の初頭に300円台で購入し(2012年5月に1:2の株式分割をしているので分割前の値段では600円台)、2012年12月に株価が1300円台に乗せたところで、我慢できずに売ってしまったそうですが、それでも投資した金額は4倍以上になったそうです。

とても大事なことがこのエピソードから得られます。それは、底値で買ったり、最高値で売ったりしなくても、大きく儲けるチャンスは沢山転がっている、という事です。

Jトラストってどんな会社?

では、この様な驚くべきパフォーマンスを示したJトラストはどんないったいどんな会社なのでしょうか。

Jトラストという会社は、もともとはイッコーという名前の中小企業相手のノンバンクでした。2008年3月に、ライブドアの金融関連子会社のトップを務めていた事もある藤澤信義氏が個人で第三者割当増資に応じて筆頭株主になってから、相次ぐM&Aで急成長を始めます。

詳しい経緯はこちら http://www.jt-corp.co.jp/company/history.html

Jトラストが傘下に入れた有名なノンバンクとしては、ロプロ(旧日栄)、武富士、クレディア、KCカードがあります。この内、ロプロ、武富士、クレディアは、いずれも元上場企業で、経営破綻している会社です。

この経営破綻している、という部分がミソです。何故なら、破綻した会社は、過払い利息の返還義務が限定的になるからです。

ご存知の様に、ノンバンク各社は、一部の会社を除き過払い利息の返還問題に苦しんで来ました。ロプロ、武富士、クレディア

経営破綻したノンバンクを、スポンサーとして子会社化して来たJトラストは、目の付け所が良かったと言えるでしょう。過払い利息の返還義務さえ無くなれば、ノンバンクはきちんと利益のだせるビジネスだからです。

Jトラストの株価急騰のウラには急激な売上・利益の上昇があり、それらは、相次ぐM&Aによってもたらされた結果なのです。

株価急騰時期の2012年の利益が飛びぬけて大きいのはなぜ?

決算期売上経常利益純利益1 株益
2013年3月期55,68713,70413,309214.44
2012年3月期24,5085,48634,500567.67
2011年3月期16,9084,3233,23353.85
2010年3月期16,5414,3034,10869.12
2009年3月期4,9462963075.57

2012年3月期の当期利益が経常利益を大きく上回って飛び抜けた数字になっています。これは特別利益が発生している為です。特別利益は、楽天からKCカードを買収した事に伴うものです。

~~~特別利益の解説:ざっくり~~~
楽天は国内信販を買収しカード事業を始めたのだが、過払い利息の返還義務が大きく発生してしまったから、買収した国内信販をJトラストに売却して手放した。
その後、「会社の業務が思ってたより順調」→「国内信販の企業価値を再計算」→「思ってたより294億円も資産が多い」→「特別利益294億円利益計上」
http://www.jt-corp.co.jp/news/pdf/36/H23091601.pdf
~~~ざっくり解説終わり~~~

楽天は、カード事業を始めるにあたり、2005年に国内信販という会社を買収しました。(買収後、楽天KCに社名変更)しかし、その後2007年に所謂「みなし弁済」を認めない最高裁の判決が出てしまい、膨大な過払い利息の返還義務が発生する事になりました。

楽天は、国内信販が過去にグレーゾーン金利で行った貸付から生じる過払い利息の返還義務を断ち切る為、2011年に、楽天KCの事業のうち「楽天カード」等のみを別会社に移管し、過払い利息の返還義務を負っている法人としての楽天KCを売却しました。これを買収したのがJトラストという訳です。(買収に際し、社名を楽天KCからKCカードに変更)

この売却に際して、楽天は840億円の特別損失を2012年12月期決算で計上しています。過払い利息の返還義務を絶つ為に、巨額のコストを要したという訳です。

ところが、KCカードを買収した側のJトラストは、KCカードの財務状況について、楽天とは異なる見方をしています。というのは、Jトラストは、KCカードの買収に伴い、なんと294億円もの「負ののれん発生益」を特別利益に計上しているからです。

これは、買収したKCカードの純資産が、楽天から購入した金額よりも294億円多い、という判断で会計処理をした事を意味します。そして、これが、2012年3月期の当期利益が飛び抜けた数字になっている原因です。

さて、ここまで読むと良い事ばかりのようですが、必ずしもそうとは言えません。実際に、5月半ば以降株価は急落しています。次回は、その事情も含めて解説してみたいと思います。

株式投資にリスクはつきものです。従って、リスクの管理が投資に於いて最も重要な要素と言えるでしょう。例えば、ロスカットの徹底などは、リスク管理の基本中の基本です。

しかし、リスクを恐れて何もしなければ、リターンも生まれません。今回ご紹介したJトラストの様な銘柄は極端な例と言えますが、今回のアベノミクスラリーの様な全体相場の上昇期ではないにもかかわらず、数年で株価水準を大きく変えた銘柄が多数ある事もまた事実です。

株式投資初心者の方も、或いは、今回の株価の暴落で株式投資は怖いと思われた方も、このコラムをご覧になったのを機会に、株式投資の魅力について改めて考えてみて頂ければと思います。


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